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“投資その他の資産”って何?税務リスクを減らす6つのチェックポイント

投稿:2025.09.29  更新日:2025.09.19

こんにちは、新宿区西新宿の税理士法人阿部会計事務所の税理士阿部です。

貸借対照表を見て、「この“投資その他の資産”って何だろう?」と思われたことはありませんか?

会計上は固定資産(有形・無形)でもないけれど、

資産の部に表示されていて、なんとなく“動きにくいお金”がそこにある。

この“動きにくさ”が、税務では時にリスクになります。

そこで今回は、「投資その他の資産」の代表的なもの6項目を挙げ、

それぞれの意味・メリット・そして税務上の注意点をご説明します。

  1. 投資有価証券について

  2. 長期貸付金について

  3. 保険積立金について

  4. 破産債権について

  5. 敷金・保証金について

  6. 長期前払費用について


1. 投資有価証券について

まずは「投資有価証券」。

これは株式・債券・投資信託など、「将来売却してキャピタルゲインを狙う、

または配当や利息を得る目的で保有される有価証券」のことです。

  • 評価損の取扱い:有価証券を売却して損失(譲渡損)が発生した場合、法人税法上で損金算入可能です。
    ただし、「含み損」つまり売っていない未実現損は、原則として損金にはなりません。時価評価をして帳簿上含み損を出しても、それだけでは税務上の損金にはできません。

  • 評価益・時価との差額:時価が上がって含み益になっていても、会計処理方法によっては当期利益に反映させない場合があります。

  • 受取配当金の益金不算入制度:投資信託等の分配金や株式の配当の中には、一定割合を益金不算入(課税対象外)とできるものがあります。例えば法人が特定の投資信託に投資し、条件を満たす分配金についてはその一部が益金不算入の対象になるケースがあります。

  • 売却時/上場廃止時の特例:保有している有価証券が上場廃止になったり、価格の著しい下落があったと認められた場合、評価損が損金算入できる特例が認められることがあります。

税務リスク:

  • 売却目的か保有目的かが曖昧だと、「流動有価証券」扱いになる可能性があり、評価差額等で損益の認識が変わることがあります。

  • 関係会社株式など、一定の関係性がある株式の場合は、評価損が損金に算入されない場合もあるため要注意。


2. 長期貸付金について

「長期貸付金」とは、会社が取引先や関連会社に対して通常1年以上返済期限がある貸付を行った場合の資産です。

通常は固定資産の一部として、「投資その他の資産」に含まれます。

注意すべき点:

  • 貸倒れリスク:貸付先の財務状態が悪くなった場合、貸倒れが発生する可能性があります。貸倒見込額を計上することで税務上の損金算入が可能です。ただし、見込みが不明確だと認められないことがあります。

  • 利息収入の認識時期と税務:利息を受け取る契約であれば、受取利息として益金計上する必要があります。契約書、利息の計算方法、貸付条件を明確にしておかないと、税務署から「実質無利息貸付と判断」されることも。

  • 債務超過・自己資本比率との関係:長期貸付金が多すぎると、資金繰りや自己資本比率を圧迫し、金融機関の評価が下がるリスクがあります。


3. 保険積立金について

保険積立金とは、会社が生命保険や損害保険などで将来の保険金支払や解約返戻金を見込んで積み立てている金額。長

期間にわたり積立を行うものは、「投資その他の資産」に含まれることがあります。

注意点:

  • 契約内容の確認:どのような保険契約か、返戻率・解約可能性があるかを確認すること。解約返戻金がある場合は、それを見込んだ資産計上ができます。

  • 税務上の評価と課税:保険契約の解約返戻金等が発生するタイミングで売却益(あるいは収益認識)となる場合があります。その際の課税所得扱い、利息扱い、また保険料の経費扱いの限度などを確認します。

  • 流動性の観点からの管理:保険積立金は簡単に現金化できないものが多いため、「手元資金が逼迫している会社」にとってはキャッシュフローの重荷になることがあるので注意。


4. 破産債権について

破産債権とは、取引先等が破産手続開始により債務の履行をしなくなった債権。

回収可能性が低い債権です。これも「投資その他の資産」に分類されることがあります。

税務上の注意点:

  • 貸倒損失の損金算入:破産債権が確定的になったときに貸倒損失として損金処理が可能です。ただし、「破産手続開始決定」など公式な手続きが証拠となる書類が必要です。

  • 見込みだけではダメ:破産申立をしているかどうか、破産管財人が決まっているかなど、法的手続きの進行状況を確認し、回収不能が明らかであることを示すことが大切です。

  • 将来見込みとの差異:期待していた回収が少しでも見込める場合には、将来見込額を回収可能性に応じて慎重に見積もる必要があります。見込み過大は税務リスク。


5. 敷金・保証金について

敷金や保証金は、不動産賃貸契約時に賃貸人に預けるお金です。

「投資その他の資産」に含まれることがあります。

ポイントと注意点:

  • 返還されるかどうかの確認:契約書に「将来返還されるか」「返還されない(償却、敷引等)」かの条項があるかを確認。返還されるものは「敷金」資産計上。返還されない部分または償却部分は「長期前払費用」や「繰延資産」として資産計上し、一定期間で償却。

  • 償却の基準額と期間:償却される部分が契約で明確にされており、その金額が20万円を超える場合、長期前払費用等に資産計上して償却する必要があります。期間は契約期間か、契約期間が長ければ5年で均等償却とするケースが一般的。

  • 消費税の扱い:返還される敷金等は基本的に預け金扱いで、消費税非課税となることが多い。返還されない部分または償却部分等は課税対象となることがある。


6. 長期前払費用について

「長期前払費用」とは、その支出が一度に費用とするには期間が長いため、

資産として前払いし、将来にわたって費用配分するものを指します。

敷金の償却部分や礼金、保険の一定の前払、借入の手数料などが該当する場合があります。

注意点:

  • 契約書・条項の明確性:前払部分や償却部分が契約で明らかになっているもの。条項に「返還しない」「償却する」とあるかを確認。

  • 償却期間の設定:契約期間が5年未満であればその期間で、5年以上であれば5年で均等償却とする規定が多く、税務上の慣行もそのようになっている。

  • 支出時に全額費用にしてしまわないこと:例えば礼金や保証金の償却部分を支出時に一括で費用処理してしまうと、税務上問題になることがあるため、正しく資産計上し、毎期償却する。


全体を通じてのリスクと管理のコツ

これら「投資その他の資産」に共通する税務上の注意点を整理しておきます。

  • 資金繰りに注意:資産計上されてキャッシュが実際に固まっているものが多いと、手元資金が少なくなる可能性があります。資産構成を把握し、流動資産とのバランスを取ることが重要です。

  • 定期的な再評価:有価証券などは含み損益の発生、保険積立金や貸付金は回収見込の変更、破産債権は回収可能性など、定期的に見直すことで過大評価/過小評価のリスクを防ぐ。

  • 契約書・条文の確認厳格に:敷金・保証金・前払費用などは契約に「返還されるか/返還不可か」「償却割合」「償却期間」が明示されていること。これが税務上の根拠になります。

  • 表示区分・勘定科目の整合性:貸借対照表上の「投資その他の資産」の中で、どれが有価証券、どれが敷金、どれが長期前払費用か、勘定科目・表示区分を間違えないこと。


結び:税務で“見えない負荷”を減らすために

「投資その他の資産」は、帳簿上では資産なので“損益を圧迫しない優雅な数字”と思われることがあります。

しかし税務の世界では、この種類の資産こそ“見えない負荷”や“将来の税務リスク”を持つことがあります。

だからこそ、会社がこれらを保有・計上する際には、

  • 契約や条項を明確に

  • 実態を反映した会計処理と税務処理

  • 定期的な見直しと開示

が非常に重要です。

もし「うちにもこんな投資その他資産があるけど正しく処理しているか不安だ」

という経営者の方がいらっしゃれば、

弊所では「投資その他資産の棚卸し」および「税務・会計の整理シミュレーション」も承っております。

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