税理士ブログ
“労務管理の落とし穴”とその処方箋
こんにちは、新宿区西新宿の税理士法人阿部会計事務所の税理士阿部です。
経営者の皆さん、「税金」には敏感でも、
「労務管理」になると途端に“他人事”になっていませんか?
ですが、労務管理は人の出入りだけでなく、
税務・社会保険・助成金…あらゆる経営数値と直結しています。
今回は、そんな労務管理の基本を5つの切り口で解説します。
① 人事労務関係書類の整備について
「社長、労務ファイル…Excelひとつで済ませてませんか?」
労働基準監督署の調査や、助成金の申請、あるいは社員とのトラブル発生時に、
「書類がない=アウト」になるケースは多々あります。
必ず整備しておきたい書類
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労働契約書・雇用契約書(条件明示の義務)
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就業規則・給与規程(常時10人以上の事業所は届出義務)
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36協定(時間外労働・休日労働の前提)
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入社時誓約書・身元保証書
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育児・介護休業の規程(実は法律で必須)
これらが無いと、退職トラブル時に「言った・言わない」の水掛け論へまっしぐら。
労働トラブルの弁護士費用は節税対象になりますが、
そもそも節税より平和な職場が欲しいのが本音でしょう。
② 従業員の定着率について
「採用よりも、辞めさせない方が100倍お得です」
採用コストは今や一人あたり数十万円。
面接・教育・OJT…すべてが“投資”です。
それを数ヶ月で辞められたら、まさに減価償却もできない“損金”扱い。
定着率を上げるための仕組みづくり
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定期面談・フィードバック制度
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キャリアパスの提示(社内で昇進・昇給の見える化)
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ライフスタイルに応じた柔軟な働き方(時短・在宅・副業許可など)
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福利厚生の見直し(社宅、食事補助、資格手当等)
税務的にも、一定の福利厚生は経費化可能であり、「社員の満足度UP+節税」にもなります。
③ 労働保険について
「年度更新、忘れてませんか?」
労働保険とは、雇用保険と労災保険の総称です。
労働者を一人でも雇用したら、必ず加入義務が生じます。
年に一度の「年度更新」もお忘れなく。
雇用保険のポイント
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パート・アルバイトでも週20時間以上かつ31日以上の見込みがあれば加入対象。
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雇用保険料率は業種で異なるので要確認。
労災保険の注意点
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正社員・パート・役員を問わず、業務中・通勤中の事故には労災が適用。
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役員は原則対象外ですが、特別加入制度もあります。
④ 社会保険について
「厚生年金、高いですよね。でも…逃げ道はありません」
社会保険は、健康保険・厚生年金・介護保険などのセットです。
法人であれば、社長ひとりでも加入義務があります。
加入漏れがあると…
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税務調査や年金機構の調査で、過去2年分の遡及徴収が来ることも。
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未加入を「節税」と捉えると、後に延滞金&ペナルティが痛手。
対策:報酬設計の見直し
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役員報酬の分割(賞与併用)や、社宅・福利厚生の活用で、社会保険料の負担をコントロール。
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中小企業退職金共済の加入で、老後対策+損金算入が可能。
⑤ 時間外手当について
「残業代は出してる“つもり”ではNG」
“みなし残業制”や“固定残業代制”の誤解が多く、
「基本給に含まれている」では済まないのが残業代の怖さです。
税務上の論点:
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未払残業代が税務調査で指摘された場合、追加支給額は過年度分として損金算入可。
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ただし、過大な計上や根拠の曖昧な引当金は否認リスク。
対策:
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就業規則・雇用契約書でみなし残業の明記(時間・金額・清算方法まで)
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月次での労働時間管理、勤怠システムの導入
税務&IPO上、未払いが蓄積したままだと“爆弾”になります。
まとめ
税理士の仕事は、単なる帳簿の整理ではありません。
人にまつわる数字を整理し、会社の成長を支えること。
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労務管理の体制が整っていれば、税務上のリスクも減る
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書類・制度・給料設計がしっかりしていれば、従業員の定着率も上がる
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トラブルが少ない職場は、余分な顧問弁護士費用も減らせる
労務と税務、両方をあらかじめ両方を見通していれば、
「人の問題で税金が増える」ことも、「お金の問題で人が辞める」ことも防げるのです。