税理士ブログ
倒産防止共済の加入までの流れと注意点|中小企業の資金防衛と節税を兼ねた制度の活用
中小企業の経営において、万が一の資金ショートリスクに備えることは、売上を伸ばすことと同じくらい大切です。
そうしたリスクヘッジの一つとして有効なのが、「中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済)」です。
この制度は、万が一の取引先倒産による連鎖倒産を防ぐことを目的として国が設けた共済制度で、実質的に節税効果も期待できるため、多くの経営者に利用されています。
本記事では、倒産防止共済の制度概要、加入の流れ、実務上の注意点をわかりやすく解説します。
■ 倒産防止共済とは?制度の基本概要
中小企業倒産防止共済制度は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営する制度で、正式名称を「中小企業倒産防止共済」といいます。
この制度では、取引先企業が倒産して売掛金が回収できなくなった場合、無担保・無保証・無利子(事務手数料あり)で掛金の10倍までの借入が可能です(上限8,000万円)。
また、掛金は月額5,000円~20万円の範囲で任意に設定可能で、支払った掛金は全額損金として法人税の計算上経費扱いとなります。
さらに、解約時には一定の条件下で掛金が全額返戻されることから、「節税+資金備蓄」の二重の効果がある制度です。
■ 加入の基本条件
倒産防止共済に加入するには、以下の条件を満たす必要があります。
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法人または個人事業主であること
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継続して1年以上の事業実績があること
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商工業に属する中小企業者であること(業種・資本金・従業員数などに制限あり)
たとえば、製造業であれば資本金3億円以下、従業員300人以下であれば加入可能です。
■ 加入の流れ|実務的なステップ
① 取扱窓口への相談・申込み
加入手続きは、最寄りの商工会・商工会議所、取扱金融機関(銀行・信用金庫等)を通じて行います。
顧問税理士に相談すれば、必要書類の準備や税務的な確認もサポートできます。
② 必要書類の準備
以下の書類が必要です。
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加入申込書
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会社謄本(履歴事項全部証明書)
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確定申告書または決算書のコピー(直近1期分)
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法人印・代表者印
※個人事業主の場合は開業届や青色申告決算書などが必要です。
③ 掛金月額の決定
掛金は5,000円〜20万円の間で自由に設定できます。年額で最大240万円、累計で800万円が上限です。
将来の解約返戻や税務のバランスを考慮し、資金繰りに無理のない範囲で決定しましょう。
④ 掛金の支払い開始
掛金は「口座振替」または「現金納付」で支払います。支払い開始後、加入者証が発行され、正式に加入完了となります。
■ 解約・借入・節税効果のポイント
◎ 解約返戻金
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40か月以上の掛金納付で、解約時に全額(100%)返戻されます。
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39か月以下の解約では返戻率が80%未満となるため注意が必要です。
◎ 借入時の条件
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取引先が倒産し、売掛金の回収不能が発生した場合
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借入限度:掛金累計の10倍(最高8,000万円)
◎ 節税効果
掛金は全額損金処理可能。例えば年間240万円の掛金を支払った場合、実効税率30%と仮定すれば、約72万円の法人税等が節税されます。
ただし、解約時には雑収入として益金算入されます(=将来の課税を繰り延べる仕組み)。
■ 注意点①:短期間での解約は非効率
上述のとおり、40か月未満で解約すると元本割れとなります。
節税だけを目的として短期間で加入・解約を繰り返すと損をするリスクがあるため、長期的視点での加入が前提です。
■ 注意点②:解約時の益金計上に備える
解約返戻金は、損金にはならず全額が益金(雑収入)として課税対象になります。
特に利益が出ている年度に解約すると、法人税が大幅に増えるケースもあるため、解約時期の戦略的判断が必要です。
■ 注意点③:赤字企業はメリットが薄い
損金処理による節税は、あくまで利益が出ているからこそ有効です。赤字企業が加入しても、税負担軽減の効果は出にくいため、加入タイミングを誤らないようにしましょう。
■ まとめ|「節税」と「備え」を同時に実現する制度
中小企業倒産防止共済は、資金トラブルに備える保険的な制度であると同時に、合法的かつ効果的な節税手段でもあります。
ただし、税務処理・解約のタイミング・返戻金の取扱いなど、注意すべき点も多く、計画性が求められる制度です。
加入を検討する際は、税理士など専門家と相談のうえ、利益予測や資金繰りを踏まえて判断することをおすすめします。
当事務所では、倒産防止共済の加入アドバイス、掛金設計、節税シミュレーション、解約時の税務対応などもサポートしております。
「加入すべきか迷っている」「今がタイミングとして適切か知りたい」など、お気軽にご相談ください。