税理士ブログ
給与の源泉徴収、いちばんの落とし穴は「甲・乙・丙」の選び間違い。
はじめに
こんにちは、新宿区西新宿の税理士法人阿部会計事務所の税理士阿部です。
給与計算は、毎月のルーティンのようでいて、実は“間違えるとダメージが大きい”業務です。
その中でも特に多いのが、源泉所得税の計算で使う 「甲欄・乙欄・丙欄」 の選択ミス。
甲乙丙は、給与計算ソフトの設定で一度決めると、そのまま走り続けることが多いので、
最初の判断がズレると、毎月ずっとズレます。
そして年末調整や税務調査のタイミングで「え、こんなに差が…」となりがちです。
この記事では、給与からの源泉徴収について、
①甲欄に該当する給与形態
②乙欄に該当する給与形態
③丙欄に該当する給与形態
④雇用形態が変わった場合
の順で、現場で迷いやすいポイントをやさしく整理します。
※本記事は実務の一般論としてまとめています。
最終判断は個別事情(提出書類・支払頻度・扶養状況等)により変わるため、
必要に応じて専門家に確認してください。
まず前提:甲・乙・丙は「税額表の使い分け」
給与から天引きする所得税は、毎月「源泉徴収税額表」に基づいて計算します。
この税額表には 甲欄・乙欄・丙欄 があり、どれを使うかで天引き額が変わります。
ざっくり言うと、
- 甲欄:その人の“主たる給与”(メインの勤務先)
- 乙欄:副業など“従たる給与”(メイン以外の勤務先)
- 丙欄:日雇いなど特殊なケース(一定条件で)
という位置づけです。
そして、甲欄を使うために重要なのが、従業員から提出してもらう 「扶養控除等(異動)申告書」 です。
これが提出されているかどうかで、原則として甲欄か乙欄かが分かれます。
(※提出書類名は略して呼ばれることも多いですが、実務ではこの申告書がスイッチになります。)
① 甲欄に該当する給与形態
〜“メインの勤務先”で、申告書が出ている人が甲欄〜
1) 甲欄の基本:扶養控除等申告書を提出している
甲欄は基本的に、従業員が その会社を主たる給与の支払者として選び、
扶養控除等申告書を提出している 場合に適用します。
正社員・契約社員・パート・アルバイトなど雇用形態そのものではなく、
「その会社がメインかどうか」が基準です。
ここでよくある誤解が、「正社員だから甲欄」「アルバイトだから乙欄」。
これは違います。アルバイトでも、その会社がメインで申告書を出していれば甲欄です。
2) 甲欄が一番“天引きが適正”になりやすい理由
甲欄は、扶養人数等の情報を税額表に反映できるため、毎月の源泉税が比較的“現実に近い”金額になります。
年末調整で精算する前提ではありますが、乙欄よりも過不足が出にくいというメリットがあります。
3) 甲欄で注意すべき実務ポイント
(1) 申告書の提出漏れ
申告書が出ていないのに甲欄で計算してしまうと、源泉税が少なくなることがあり、
後で追加徴収や修正が発生します。逆に、申告書が出ているのに乙欄で引きすぎると、
従業員の手取りに影響してトラブルの火種になります。
(2) 扶養の異動(結婚・出産・扶養追加など)
扶養の変更があったのに申告書を更新していないと、税額表の適用がズレます。
人事・給与のフローとして、扶養異動があったら申告書の更新を必ずセットにしましょう。
(3) 年途中入社の年末調整
甲欄で処理していても、年末調整に必要な前職の源泉徴収票がないと正しく精算できません。
入社時に案内する運用が重要です。
② 乙欄に該当する給与形態
〜副業・掛け持ちなど「メイン以外」は乙欄が基本〜
1) 乙欄の基本:扶養控除等申告書を提出していない
乙欄は、従業員がその会社に扶養控除等申告書を提出していない場合に適用するのが基本です。
典型例は次のとおり。
- 副業先・掛け持ち先の給与
- 短期のアルバイト(主たる給与ではない)
- 申告書をあえて提出しないケース
乙欄は、甲欄に比べて源泉税が高めになりやすく、
ざっくり言うと「取りっぱぐれを防ぐために多めに引く設計」です。
2) 乙欄は“会社側が得する”ものではない
乙欄で多めに引いた税金は、会社の利益になるわけではありません。
あくまで国に預ける税金です。従業員にとっては手取りが減るので、説明がないと不満につながります。
「乙欄になる理由(主たる給与ではないため)」を軽くでも説明しておくと、無用なトラブルを防げます。
3) 乙欄でよくある実務ミス
- 本当は主たる給与なのに申告書未提出のまま乙欄
- 副業先なのに申告書を受け取って甲欄にしてしまう
- 年末調整の対象外なのに年末調整してしまう(乙欄の人は基本的に年末調整の整理が別になります)
ここは“提出書類”と“主たる給与かどうか”をセットで管理するのがコツです。
③ 丙欄に該当する給与形態
〜日雇いなど、かなり限定的。だからこそ要注意〜
丙欄は、一般的な会社では登場頻度が高くありません。
ただし、建設業、イベント業、スポット雇用が多い業態などでは出てくることがあります。
1) 丙欄の典型:日雇い労働者等
丙欄は、いわゆる日雇い労働者等に対する給与支払いで、一定の条件に該当する場合に用いられる区分です。
支払形態や契約の実態により判断が必要なため、
「日給だから丙欄」「短期だから丙欄」と短絡的に決めるのは危険です。
2) 丙欄は“給与の実態確認”が最重要
丙欄が絡む場合は、そもそも
- 雇用契約の形
- 支払頻度(日払い・週払い・月払い)
- 継続性
など、給与の実態が整理されていないと判断がズレやすいです。給与計算ソフトの設定を先に触るのではなく、契約と実態の確認を優先してください。
3) よくある落とし穴
スポット雇用のつもりが、実態として継続勤務になっていたり、
契約が曖昧で給与の区分がズレていたりすると、源泉だけでなく社会保険・労働保険の論点も絡んできます。
丙欄は、源泉税の話だけで終わらないことが多い点が特徴です。
④ 雇用形態が変わった場合
〜「設定を変え忘れる」が一番多い事故〜
雇用形態(あるいは働き方)が変わると、甲乙丙の適用や年末調整の扱いが変わることがあります。
実務では次のケースが多いです。
1) アルバイト→正社員(主たる給与へ変更)
アルバイトから正社員になり、「この会社がメインの勤務先」になるなら、
甲欄で処理するために扶養控除等申告書を提出してもらう必要があります。
提出が遅れると、乙欄のまま引きすぎたり、甲欄に切り替え漏れたりします。
2) 正社員→副業(主たる給与が別になる)
転職や副業の事情で、主たる給与が別の会社になる場合、今まで甲欄だったのが乙欄に変わることがあります。
ここは従業員との確認が必要です。
“会社側で勝手に決めない”のがポイントです。
3) 途中入社・途中退社(年末調整の可否)
年末調整は、原則として「その会社が年末時点で主たる給与を支払っている」などの条件により整理が変わります。
前職分の源泉徴収票の提出があるか、年末時点で在籍しているか、といった要素も絡みます。
雇用形態の変更がある年は、特に年末調整の説明が大切です。
4) 日雇い→継続雇用(丙欄の整理が必要)
短期雇用のつもりが、実態として継続勤務になった場合、
丙欄から甲欄・乙欄へ切り替えが必要になることがあります。
このケースは、源泉だけでなく社会保険・労働保険の判定にも影響するため、早めに整理するのが安全です。
まとめ:源泉徴収は「申告書×主たる給与×設定管理」で決まる
給与からの源泉徴収(甲乙丙)のポイントを、最後に超シンプルにまとめます。
- 甲欄:主たる給与の勤務先で、扶養控除等申告書を提出している
- 乙欄:従たる給与(副業等)で、申告書を提出していない
- 丙欄:日雇い等の限定ケース(実態確認が必須)
- 雇用形態が変わったら:設定・申告書・年末調整の整理を“必ず”見直す
源泉徴収は「毎月の計算」なので、最初の設定ミスが積み上がります。
逆に、最初に正しく整えておけば、毎月がラクになります。
当事務所では、給与計算フローの整備、甲乙丙の判定サポート、年末調整、源泉税のチェック、
雇用形態変更時の整理まで一括で支援しています。「うちの設定これで合ってる?」という段階でも大歓迎です。
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